東京大学 物性研究所極限コヒーレント光科学研究センター板谷研究室

水薄膜ジェットにおける高次高調波発生の論文が、APEXに掲載されました。

水薄膜ジェットは、溶媒や溶質における化学反応の軟X線アト秒吸収分光に使えるだけでなく、高次高調波発生のための非線形媒質としても注目を集めています。板谷研では、水分子のOH振動に共鳴な高強度中赤外パルスで励起した場合での可視域での高次高調波発生について時間分解分光を行った結果、励起パルスが吸収されてから約2ピコ秒後に高調波発生効率が増大し、その状態が長時間(100ピコ秒以上)維持されることを見いだしました。この結果は、振動励起状態の緩和によって準定常的に1000Kを超える高温高圧状態が発生し、水素結合が乱雑化することによるものと推測されます。また、凝縮系における低エネルギーの自由度を「温度」という巨視的な物理量によって、高次高調波発生を制御できることを示しています。

本研究は、東大物性研の原田慈久教授、東大生研の芦原聡教授との共同研究によるものです。

T. Yang, T. Kurihara, Y. Hua, T. Mizuno, T. Kanai, S. Ashihara, Y. Harada, and J. Itatani “Enhancement of high harmonic generation in liquid water by resonant excitation in the mid-infrared,” Applied Physics Express 17, 122006 (2024).

[https://doi.org/10.35848/1882-0786/ad98e2]

 

(a)ポンプ・プローブ分光によって観測された永続的な高調波強度の増大(レーザー波長3250 nm, 5次高調波)。(b) レーザー波長を変えたときの5次高調波の増大率の違い。